現場別の工数を見える化すると、何が判断できるようになるか
「工数の集計、やっと終わりました」。月初にこの言葉が出る会社は多いと思います。そして、その集計表は月次会議で配られ、そのまま引き出しにしまわれます。
ここまでの記事では、集計を楽にする方法を扱ってきました。今回からは視点を変えます。集計した数字を、何に使うのか。結論から書きます。集計はゴールではなく、スタートです。そして、現場別に工数が見えると、いまより早く打てる手が確実に増えます。
集計しても使われない会社が多い理由
先に、よくある状態を挙げます。数字が出るのが翌月。もう手の打ちようがない。見えるのが工事全体の合計だけ。どこで超過したか分からない。月次会議の資料になって終わり。誰も意思決定に使っていない。
この3つが揃うと、集計は「やらなければならない事務作業」になります。20時間かけて、誰も使わない表を作っていることになる。逆に言えば、早く・細かく・見る習慣があれば、同じ数字が経営判断の材料になります。
見える化で判断できるようになる5つのこと
①工事の採算が、完成前に分かる
最大の価値はここです。実行予算で労務費を120人工と見込んでいた工事があるとします。工事の進捗が60%の時点で、投入済みが96人工。このペースなら完成時は160人工。40人工の超過見込み。
これが工期の途中で分かることに意味があります。完成後に「赤字でした」と分かっても、打てる手はありません。途中で分かれば、人員配置を変える、工程を組み替える、追加請求の交渉に入る、といった選択肢があります。工事台帳は決算のための書類ではなく、工期中に軌道修正するための道具です。
②見積の精度が上がる
過去の実績が、次の見積の根拠になります。「同じ規模のマンション改修は、前回135人工だった」という数字があれば、見積の精度は感覚頼みから一段上がります。多くの会社が、見積を担当者の経験で出しています。その人が辞めたら、精度が落ちます。実績が数字で残っていれば、見積のノウハウが会社に蓄積されます。
③人員配置の判断ができる
どの現場が人を食っているのか。どの現場なら1人減らせるのか。工事全体の合計だけを見ていると、この判断ができません。現場別・日別に見えて初めて、配置の議論ができます。「A現場は先週から毎日8人入っているが、進捗は変わっていない」。この事実が見えれば、現場に確認を入れられます。
④自社と協力会社の使い分けが最適化できる
自社の作業員を投入するのと、協力会社に出すのと、どちらが利益が残るのか。これは工種と時期によって変わります。実績がないと感覚で判断することになります。現場別・所属別の工数が見えていれば、「この工種は外注比率を上げた方が利益が出る」といった判断が数字でできます。
⑤誰が何を経験しているかが分かる
職種区分を持たせて記録していれば、作業員ごとの経験の蓄積が見えます。この作業員は今年、配管工事に何人工入ったか。若手が特定の工種に偏っていないか。技能者の高齢化が進むなかで、育成の計画を立てる材料になります。建設業就業者に占める55歳以上の割合は36.7%、29歳以下は約12%です(出典:日本建設業連合会「建設業ハンドブック2024」)。10年後を見据えると、誰に何を経験させるかは経営判断の対象です。
最初に見るべきは、3つの数字だけ
いきなり全部を見ようとすると続きません。まずこの3つに絞ってください。
数字1:工事別の投入人工(実行予算比)
各工事について、「予算◯人工に対して、現在◯人工」。これだけです。
数字2:消化率と進捗率の乖離 ★最重要
この記事で一番お伝えしたい指標です。
- 消化率 = 投入人工 ÷ 予算人工
- 進捗率 = 工事の出来高
この2つを並べて見ます。消化率が進捗率を上回っている工事が、赤信号です。たとえば、消化率60%、進捗率40% → 残り60%の工事を、40%の予算でやることになる。これは、放置すればほぼ確実に赤字になります。逆に消化率40%・進捗率60%なら、順調です。金額を見なくても、この2つの比較だけで危ない工事が分かります。
数字3:現場別の1日あたり平均投入人員
「A現場は平均6.2人/日」といった数字です。見積時の想定と比べると、人が多すぎるのか少なすぎるのかが分かります。日別に並べると、どの週から人が増えたかも見えます。
見える化しても使われない、3つの原因と対策
①数字が出るのが遅い — 対策:月末を待たない。月次で集計している限り、判断に使えるのは翌月です。工期が3ヶ月の工事なら、1/3が終わってから最初の数字が出ることになります。日報が入力された時点で集計されている状態なら、いつでも今日時点の数字が見られます。ここが手集計との決定的な差です。
②粒度が粗い — 対策:工事別・現場別まで分解する。会社全体の労務費合計を見ても、何も判断できません。最低でも工事番号単位、できれば工種単位まで分解してください。集計の粒度は、記録の粒度を超えられません。日報の段階で工事番号と職種区分を持たせていないと、後から分解できません。
③見る習慣がない — 対策:週1回、1枚だけ見る。月次会議で分厚い資料を配るのをやめて、週に1回、5分だけ見る方が機能します。見るのは、上の「数字2(消化率と進捗率)」の一覧1枚で十分です。赤信号の工事だけを深掘りすればいい。続かない仕組みは、正確でも意味がありません。
現実的な始め方
いきなり全工事でやろうとしないでください。
- まず1つの工事で試す。進行中の工事を1件選ぶ
- 予算人工を決める。なければ、見積の根拠から逆算する
- 週1回、消化率と進捗率を並べて見る
- 乖離が出たら、現場に確認する
これを1つの工事で3ヶ月続けると、効果があるかどうかが自分で判断できます。効果を実感してから、全工事に広げるのが失敗しない順序です。
よくある質問
Q. 実行予算を作っていないのですが、どうすればよいですか?
A. 見積の根拠から逆算してください。「この工事は◯◯円で受けて、労務費の想定は◯◯円」という数字があれば、単価で割って人工数が出ます。精緻でなくて構いません。比較する基準があること自体に意味があります。
Q. 進捗率はどうやって出すのですか?
A. 出来高の考え方は工種によって異なりますが、実務上は現場代理人の感覚値でも機能します。「いま何割くらいですか」を週1回聞くだけでも、消化率との比較には十分です。精度より、定点観測であることが重要です。
Q. 工事が小規模で、見える化するほどの規模ではないのですが。
A. 同時進行の工事が2件以下なら、優先度は低いです。3件を超えたあたりから、どの現場に人を割くかの判断が必要になります。そこが導入の目安です。
Q. 数字を見せると、現場が萎縮しませんか?
A. 使い方次第です。「なぜ超過したのか」を責める材料にすると、現場は数字を操作するようになります。「早く気づいて一緒に手を打つため」という位置づけを共有してください。数字が正しく上がってこなくなると、見える化自体が成立しません。
Q. Excelでもできますか?
A. できます。工事別の投入人工と予算をSUMIFSで比較する程度なら、Excelで十分です。ただし、日報からの転記が発生している場合、数字が出るのは転記が終わった後になります。リアルタイム性が必要なら、記録の段階から電子化が必要です。
まとめ
- 集計はゴールではなくスタート。使われない集計表は、20時間かけた事務作業でしかない
- 見える化で判断できるのは、採算の早期把握/見積精度/人員配置/内外製の使い分け/育成の5つ
- 最初に見るのは3つの数字だけ。中でも「消化率と進捗率の乖離」が最重要
- 消化率が進捗率を上回っている工事は赤信号。金額を見なくても危ない工事が分かる
- 使われない原因は、遅い・粗い・見る習慣がない。対策は週1回、1枚だけ見る
- 始めるときは1工事から。3ヶ月続けて効果を確認してから広げる
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