建設躯体工事8.10倍|建設業の人手不足を、数字で直視する
「求人を出しているのに、応募が来ない」。これは感覚の問題ではありません。数字がそうなっています。
ここまでの記事では、日報と工数管理の実務を扱ってきました。今回は一度引いて、なぜいま業務の効率化が必要なのかという前提を、数字で確認します。
先に結論を書きます。採用で解決しようとするのが、最も高くつく選択肢です。
まず、数字を並べます
厚生労働省「一般職業紹介状況」の職業別有効求人倍率(令和8年2月分)で、上位を建設系の職業が占めています。
| 職業 | 有効求人倍率 |
|---|---|
| 建設躯体工事 | 8.10倍 |
| 建築・土木・測量技術者 | 7.05倍 |
| 土木 | 6.95倍 |
| 建設(建設躯体工事を除く) | 4.91倍 |
一方、全職業の有効求人倍率は1.14倍(令和8年1月分)です。つまり躯体工事では、1人の求職者を8社が取り合っていることになります。全職業平均のおよそ7倍の競争率です。
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」令和8年1月分・2月分
母数そのものが減っています
倍率だけでなく、分母も縮んでいます。建設業就業者数のピークは685万人(1997年)、直近は約478万人(2025年平均/総務省「労働力調査」)。約30%減です。
さらに年齢構成を見ると、就業者に占める55歳以上の割合は36.7%、29歳以下は約12%です(出典:日本建設業連合会「建設業ハンドブック2024」)。
10年後、いまの技能者の3分の1以上が引退の時期を迎えます。そして入ってくる若手は、その3分の1しかいません。これは景気の波ではなく、人口構成の問題です。待っても改善しません。
「採用できない」ではなく「採用を前提にできない」
ここが重要な転換点だと考えています。多くの会社が、人手不足への対応を「採用をがんばる」と設定しています。求人媒体に出す、紹介会社を使う、条件を上げる。
しかし8倍の競争率で勝つには、他の7社より良い条件を出す必要があります。給与を上げる、待遇を改善する、採用コストを払う。これらは全部、利益を削って行う施策です。しかも8社全員が同じことをしているので、条件は釣り上がり続けます。採用は、最も競争が激しく、最もコストが高い選択肢です。
打てる手は3つしかない
人手不足への対応は、突き詰めると3方向です。
①採用する
最も競争が激しい。前述のとおり、コストが上がり続けます。まったくやらないわけにはいきませんが、ここだけに賭けるのは危険です。
②辞めさせない(定着)
採用より安い施策です。新しく1人採るコストと、いまいる1人が辞めないようにするコストを比べると、後者の方が圧倒的に安い。しかも即効性があります。
退職理由の上位には、待遇だけでなく「事務作業が多い」「現場以外の負担が大きい」といった項目が入ります。ここは工夫の余地があります。
③1人あたりの生産性を上げる
実は、これが最も現実的です。新しく人を採るのではなく、いまいる人の時間を取り戻す。
③が現実的な理由
数字で見てみます。人手による工数集計にかかる時間は月20時間以上(自社調査)。建設業の経営者の54%以上が、毎日2時間以上を事務作業に使っている(出典:朝日新聞「Beyond Borders」建設業経営者調査)。
経営者の事務作業を月20営業日で計算すると、月40時間。集計の20時間と合わせて、月60時間です。年間にすると720時間。一般的な年間労働時間を約2,000時間とすると、0.36人分にあたります。事務所の人数が増えれば、この数字は比例して増えます。
採用を1人成功させるより、事務作業を半分にする方が、確実で、早く、安い。しかも採用と違って、競争相手がいません。他社と取り合う必要がない領域です。
誤解しやすい点
数字を扱うときの注意も書いておきます。
①倍率は職種で大きく違う
「建設業の有効求人倍率は◯倍」という表現をよく見ますが、躯体工事の8.10倍と、建設(躯体除く)の4.91倍では、状況がまったく違います。自社の職種で見てください。
②季節変動がある
建設躯体工事の倍率は、年末に向けて上昇する傾向を繰り返しています。前年同月と比較しないと、増減を読み誤ります。
③倍率が下がっても、人手不足が解消したとは限らない
倍率は「求人数 ÷ 求職者数」です。求人を出すのを諦めた会社が増えれば、倍率は下がります。数字が改善しても、実態が改善しているとは限りません。
よくある質問
Q. 外国人材の活用は有効ですか?
A. 選択肢の1つです。ただし在留資格の要件、受入体制、教育コスト、住環境の手配など、準備すべきことが多く、すぐに効く施策ではありません。中長期の打ち手として検討しつつ、短期的には②③を並行して進めるのが現実的です。
Q. 若手が採用できません。何から手をつけるべきですか?
A. 採用の前に、いまいる若手が辞めていないかを確認してください。採用と離職が同数なら、採用コストを払い続けているだけになります。29歳以下が12%しかいない状況では、入ってきた若手を定着させる方が優先度が高いです。
Q. 生産性向上といっても、現場の作業は減らせません。
A. そのとおりです。減らすのは現場の作業ではなく、事務作業です。日報の転記、工数の集計、請求書の作成、協力会社との突き合わせ。ここは現場の人数を減らさずに削減できます。
Q. 数字の最新版はどこで見られますか?
A. 厚生労働省「一般職業紹介状況」が毎月公表されています。職業別の有効求人倍率は、この統計の参考資料に掲載されています。就業者数は総務省「労働力調査」です。
Q. 小さい会社でも生産性向上に取り組む意味はありますか?
A. 小さい会社ほど効きます。従業員5人の会社で事務作業を月60時間削減できれば、1人あたり12時間です。100人の会社での60時間削減とは、意味がまったく違います。
まとめ
- 建設躯体工事の有効求人倍率は8.10倍(令和8年2月)。全職業平均1.14倍の約7倍
- 就業者数は685万人(1997年)→約478万人(2025年)。約30%減
- 55歳以上が36.7%、29歳以下は約12%。人口構成の問題であり、待っても改善しない
- 打てる手は3つ。採用は最も競争が激しく、最もコストが高い
- 集計20時間+経営者の事務40時間で、月60時間・年720時間=0.36人分
- 事務作業の削減には競争相手がいない。他社と取り合う必要がない領域
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