建設業のDXが進まない本当の理由|アプリを導入した企業の62.5%が、いまもExcel中心
「うちもそろそろDXしないと」。そう言って施工管理アプリを導入した会社が、半年後にどうなっているか。多くの場合、Excelが消えていません。
前回は人手不足を数字で見ました。今回は、その解決策とされる「DX」が、なぜ現場で止まるのかを扱います。
結論から書きます。ツールを入れることと、業務が変わることは、別の話です。
まず、数字で現状を確認します
現場TECHが2026年3月に実施した調査(建設業従事者426名)によると、施工管理アプリの導入率は31.9%(未導入68.1%)。主な管理手段は「Excel等のPCソフト中心」が68.5%で最多、「クラウド型施工管理アプリ中心」は8.5%にとどまります。紙・手書き中心も12.7%です。
そして最も重要な数字がこれです。前回調査では、ツールを導入した企業でも62.5%が依然としてExcel中心でした。
出典:「施工管理DX実態調査」(現場TECH https://kensetsu.gemba-tech.jp/)
「導入した」と「変わった」は違う
導入率31.9%という数字だけを見ると、「3社に1社は進んでいる」と読めます。しかし同じ調査で、主な管理手段としてアプリを挙げた企業は8.5%しかいません。導入率31.9%との差、約23ポイントは何か。
アプリを持っているが、主軸はExcelのままという企業です。デジタル化の進捗を5段階で聞いた設問でも、「5(十分に進んでいる)」と答えた企業は1.6%でした。
なぜExcelが消えないのか
理由は3つあると考えています。
①アプリが電子化するのは「入力」だけ
これがこの連載で繰り返し書いてきた点です。日報の運用を分解すると、書く/回収する/読み取る/データに転記する/現場別・作業員別・工事別に集計する/協力会社の請求と突き合わせる/請求明細を作る、という7つの工程になります。
多くのアプリが電子化するのは1と2、そして3の一部です。4〜7が残れば、そこにExcelが必要になります。アプリからCSVを出して、Excelで集計する。この瞬間、Excelは消えません。
②会社をまたぐと、紙とLINEに戻る
建設業は多重下請け構造です。日報は本来、会社の壁を越えて流れる情報です。ところが多くのアプリは自社内で完結する設計になっています。すると、自社の作業員はアプリ、協力会社の作業員は紙かLINE、元請けへの提出は紙かExcel、となります。アプリと紙の二重管理になり、結局Excelで統合することになります。
③請求と原価は、別のソフトにある
工数の集計はアプリ、請求書は会計ソフト、原価管理はExcel。3つに分かれていると、間をつなぐのは必ず人の手作業です。そしてその作業場所がExcelになります。
導入した企業が、乗り換えを考える理由
調査では、アプリ導入済みで乗り換えや追加導入を検討している企業(39件)の理由も聞いています。
| 理由 | 割合 |
|---|---|
| 操作性に課題がある | 46.2% |
| 他システムとの連携に課題がある | 28.2% |
| 必要な機能が不足している | 25.6% |
| 機能が多すぎて使いこなせない | 25.6% |
| 現場への定着が進まない | 23.1% |
| 費用対効果が見合わない | 18.0% |
出典:「施工管理DX実態調査」(現場TECH https://kensetsu.gemba-tech.jp/)
「機能が不足している」と「機能が多すぎる」が、同率で並んでいます。これは矛盾ではありません。必要な機能がなく、不要な機能が多いという状態です。自社の業務に合っていない、ということを意味します。
導入していない企業が、止まっている理由
未導入企業(290件)の理由も見てみます。
| 理由 | 小規模 | 中規模 | 大規模 |
|---|---|---|---|
| 現場への定着に不安がある | 46.4% | 47.1% | 31.6% |
| コストが高いと感じている | 32.1% | 44.7% | 29.4% |
| 現在の運用で十分だと感じている | 28.6% | 20.0% | 30.5% |
| 導入検討の担当者がいない | 14.3% | 21.2% | 27.1% |
出典:「施工管理DX実態調査」(現場TECH https://kensetsu.gemba-tech.jp/)
「現場への定着に不安がある」が、小規模・中規模でいずれも最多です。つまり、導入していない企業は定着しないことを恐れて止まっており、導入した企業は実際に定着しないことに悩んでいる。入口も出口も、同じ理由です。
企業規模で状況がまったく違う
もう1つ、見逃せない数字があります。小規模企業(〜49人)の導入率は1割未満。一方、大企業(300人以上)は約7割。最大で60ポイントの差があります。
「建設業のDXは進んでいない」とひとくくりに語られがちですが、実態は規模による分断です。そして小規模企業の未導入理由は、中堅以上とは違います。「現在の運用で十分」が比較的多く、「導入検討の担当者がいない」も一定数あります。体制の問題であって、意欲の問題ではありません。
負担が大きい業務は何か
同じ調査で、業務負荷が高い作業の上位はこうでした。
- 関係者との連絡・調整(17.4%)
- 日報・報告書作成(16.0%)
- 写真管理(15.7%)
- 工程管理(12.4%)
- 安全書類・検査対応(10.8%)
日報・報告書の作成が2位に入っています。ただし注意すべきは、この設問は「作成」であって「集計」ではないという点です。現場が感じている負担が日報作成であり、事務所が感じている負担はその後の集計です。同じ日報という業務でも、誰に聞くかで課題が変わります。ツールを選ぶときは、両方を見る必要があります。
失敗しないための5つの確認
調査結果から逆算すると、確認すべきことははっきりしています。
①集計まで自動化されるか
7工程のうち、いくつが自社に残るか。CSVを出してExcelで加工するなら、Excelは消えません。
②入力が何タップで終わるか
乗り換え理由の1位は操作性(46.2%)です。デモでは必ず、実際の現場名と作業員名で1件入力させてもらってください。
③機能が自社の業務に合っているか
「多すぎる」も「足りない」も同じ問題です。多機能だから良いわけではありません。
④会社をまたげるか
協力会社の日報が紙のまま残るなら、二重管理は解消しません。
⑤1現場・1ヶ月で試せるか
全社一斉導入は失敗します。小さく始めて、月末の集計まで1サイクル回してから判断してください。
よくある質問
Q. 小規模な会社でも、アプリを導入する意味はありますか?
A. 現場数と協力会社の数で判断してください。同時進行の工事が3件以下、協力会社3社以下なら、Excelの運用を整える方が費用対効果が高い場合があります。逆に、集計に月20時間以上かけているなら、その人件費と比較する段階です。
Q. 「現在の運用で十分」という判断は間違っていますか?
A. 間違いではありません。ただし、その判断が「担当者1人が回せているから」に依存していないかは確認してください。その人が辞めた瞬間に、十分ではなくなります。
Q. 導入したのに現場が使ってくれません。
A. 原因は意欲ではなく設計であることがほとんどです。入力項目に自由記述が多い、1件の入力に3分以上かかる、紙の様式と並びが違う。このいずれかに該当していないか確認してください。
Q. 多機能な製品と、シンプルな製品のどちらを選ぶべきですか?
A. 自社の課題が明確なら、シンプルな方が定着します。調査でも「機能が多すぎて使いこなせない」が乗り換え理由の上位(25.6%)に入っています。使わない機能に払う費用と、覚える負担は、どちらも実在するコストです。
Q. DXという言葉が大きすぎて、何から手をつければいいか分かりません。
A. 「DX」を「事務作業を月◯時間減らす」に置き換えてください。目標が時間になると、何を測ればいいかが決まります。まず現状の集計時間を1ヶ月計測することから始めるのが確実です。
まとめ
- 施工管理アプリの導入率は31.9%。しかし主な管理手段としてアプリを挙げたのは8.5%
- ツール導入後も62.5%が依然Excel中心。導入と変化は別の話
- Excelが消えない理由は3つ。電子化されるのが入力だけ/会社をまたげない/請求と原価が別ソフト
- 乗り換え理由の1位は操作性(46.2%)。「機能不足」と「機能過多」が同率で並ぶ
- 未導入の最大理由は「現場への定着に不安」。入口も出口も同じ理由
- 小規模の導入率は1割未満、大企業は約7割。最大60ポイントの差
- 確認すべきは5点。中でも集計まで自動化されるかが分かれ目
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