建設業の原価管理と工数管理の違い|工数を取っているのに、利益が分からない理由
「工数はちゃんと取っています。でも、どの現場が儲かっているのかは分かりません」。これは珍しい話ではありません。むしろ、工数管理に熱心な会社ほど、この状態に陥りやすいと感じています。
前回は、アプリを導入してもExcelが消えない理由を扱いました。今回は、似た言葉として語られがちな原価管理と工数管理を整理します。
結論から書きます。工数管理は原価管理の「部品」です。部品だけを磨いても、利益は見えません。
2つの言葉の定義
工数管理とは
工数管理とは、投入した労働量を記録・集計することです。建設業では「人工(にんく)」、つまり作業員1人が1日働いた量を1とする単位で数えるのが一般的です。誰が、どの現場に、何人工入ったか。この3点を記録し、現場別・作業員別・工事別に集計します。
原価管理とは
原価管理とは、工事にかかった費用を把握し、実行予算と比較して利益を管理することです。建設業の工事原価は、材料費(資材、消耗品)、労務費(自社の作業員の人件費)、外注費(協力会社への支払い)、経費(重機リース、運搬費、現場管理費など)の4つで構成されます。これらを工事ごとに集計し、「この工事はいくらで受けて、いくらかかって、いくら残ったか」を把握するのが原価管理です。
2つの関係
工数管理は、原価管理のうち「労務費」の数量を担う部分です。式にすると、こうなります。
原価管理全体の中で見ると、材料費は請求書・納品書から、労務費は工数管理から、外注費は協力会社の請求書から、経費は領収書・請求書から集計されます。工数管理は、原価4要素のうち1つの、さらに「数量」の部分だけを扱っています。
違いを整理すると
| 観点 | 工数管理 | 原価管理 |
|---|---|---|
| 対象 | 労働量 | 工事にかかる費用全体 |
| 単位 | 人工・時間 | 円 |
| 目的 | 投入量の把握 | 利益の把握 |
| データ源 | 日報・出面表 | 日報+請求書+領収書 |
| 比較対象 | 予定工数 | 実行予算 |
| 主な担当 | 現場・事務 | 経理・経営 |
なぜ「工数を取っているのに利益が分からない」のか
冒頭の状態が起きる理由は、3つあります。
①工数に単価が掛かっていない
最も多いパターンです。「A現場に120人工」という数字はある。しかし、それがいくらなのかに変換されていない。人工のままでは、材料費や外注費と足し算できません。円に変換されて初めて、原価として扱えます。
特に、職種によって単価が違う会社では注意が必要です。配管工の1人工と、職長の1人工は、同じ1ではありません。記録の段階で職種区分を持たせていないと、後から正確な労務費は出せません。
②他の原価と、別の場所にある
工数は日報アプリ、材料費は会計ソフト、外注費はExcel。3つの数字が別々の場所にあると、足し算するのは人の手です。そして手作業である以上、毎月は回りません。結果として、原価が判明するのは決算時になります。
③実行予算がない
原価が分かっても、比べる相手がなければ判断できません。「この工事、原価850万円でした」と言われても、良いのか悪いのかは分かりません。実行予算900万円なら順調、800万円なら超過です。原価管理とは、実績と予算の差を管理することです。予算がなければ、それは原価の「記録」であって「管理」ではありません。
原価4要素のうち、最もブレるのは労務費
ここで押さえておきたいのが、4つの原価のうち、どれが最も予算からズレやすいかです。
材料費 — 見積の段階で数量と単価がおおむね固まります。資材高騰などの外部要因はありますが、日々の変動は比較的小さい。
外注費 — 協力会社との契約で金額が決まります。請負なら固定、常用でも単価は事前に決まっています。
経費 — 重機のリース期間など、計画である程度読めます。
労務費 — ここだけが、日々の現場の状況で変動します。天候で作業が止まる、段取りが悪く手待ちが出る、想定より手間がかかる、応援を入れる。すべて労務費に跳ね返ります。
つまり、原価管理で最も目を離してはいけないのが労務費であり、その数量を担っているのが工数管理です。工数管理は原価管理の「部品」ですが、最も重要な部品だと言えます。
労務費だけは、請求書が来ない
もう1つ、構造的な違いがあります。材料費・外注費・経費には、請求書や領収書という外部からの証拠が届きます。それを工事ごとに仕分ければ、原価は集計できます。
労務費には、請求書が来ません。自社の作業員がどの工事に何人工入ったかは、日報から拾うしかないのです。日報が正確でなければ、労務費は正確になりません。労務費が正確でなければ、原価は正確になりません。原価管理の精度は、日報の精度を超えられません。
実務での正しい順序
工数管理から原価管理へ、つなげる順序を整理します。
ステップ1:工数を正確に取る
誰が・どの現場(工事番号)に・何人工。職種区分も記録する。
ステップ2:単価を掛けて労務費にする
職種別の単価を掛けて、人工を円に変換する。単価は現場に持たせず、事務所側で掛けるのが原則です。
ステップ3:他の原価と合算する
材料費・外注費・経費と、工事番号をキーに合算する。
ステップ4:実行予算と比較する
工事の途中で、予算に対する消化状況を確認する。
多くの会社が、ステップ1で止まっているか、ステップ1から4まで毎回手作業で回しているかのどちらかです。
工数管理と原価管理、どちらから始めるべきか
工数管理からです。理由は単純で、4つの原価のうち、工数管理だけは自社で記録しないと存在しないデータだからです。
材料費や外注費は、請求書が来れば後からでも集計できます。しかし、3ヶ月前に誰がどの現場に何人工入ったかは、記録していなければ二度と分かりません。失われると復元できないデータから、先に押さえるのが正しい順序です。
よくある質問
Q. 工数管理システムと原価管理システムは、別々に必要ですか?
A. 会社の規模と、どこまで自動化したいかによります。工数を集計して労務費に変換できれば、残りの材料費・外注費は会計ソフトやExcelでも管理できます。重要なのは、工事番号という共通のキーで、両方のデータがつながっていることです。
Q. 労務費の単価には何を含めるべきですか?
A. 給与だけでなく、法定福利費(社会保険料の会社負担分)、賞与の按分、各種手当を含めるのが一般的です。給与額だけで計算すると、労務費を過小に見積もることになります。具体的な算定方法は、顧問税理士に確認してください。
Q. 共通費(複数の現場を回る職長の人件費など)はどう扱いますか?
A. 人工数による按分など、シンプルで継続できるルールを1つ決めてください。精緻な配賦を目指すより、毎月同じルールで回し続ける方が、判断材料としての価値は高いです。
Q. 実行予算を作っていないのですが、どうすればよいですか?
A. 見積の根拠から逆算してください。「この工事は◯◯円で受けて、労務費は◯人工くらいを想定していた」という数字があれば、それが予算になります。精緻でなくて構いません。比較する基準があること自体に意味があります。
Q. 工数を取るだけでも意味はありますか?
A. あります。人員配置の判断、見積の精度向上、協力会社との突き合わせなど、工数そのものが使える場面は多くあります。ただし、利益を知りたいなら、単価を掛けて円にするところまで進める必要があります。
まとめ
- 工数管理は投入した労働量の記録。原価管理は費用全体を把握して利益を管理すること
- 工数 × 単価 = 労務費。工数管理は原価4要素のうち「労務費の数量」を担う部品
- 工数を取っているのに利益が分からない理由は3つ。単価が掛かっていない/他の原価と別の場所にある/実行予算がない
- 原価4要素のうち、最もブレるのは労務費。日々の現場の状況で変動する
- 労務費だけは請求書が来ない。日報から拾うしかない
- 原価管理の精度は、日報の精度を超えられない
- 始めるなら工数管理から。失われると復元できないデータを先に押さえる
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