日報を月末にまとめて書く会社で、実際に起きていること
月末の事務所で、こんな光景があります。職長が、5日分の日報をまとめて書いている。手帳とスマホの写真を見返しながら、「先週の水曜は……たしか山田さんが半日で上がったんだったかな」とつぶやきながら。
その「たしか」が、そのまま請求書になります。
前回は一人親方の記録について書きました。今回は、多くの会社で当たり前になっているまとめ書きを扱います。
結論から書きます。まとめ書きで失われるのは、精度だけではありません。
まとめ書きで失われる3つのもの
①精度
当然ですが、記憶は減衰します。そして重要なのは、何から先に忘れるかです。最初に消えるのは、例外です。
- 半日で上がった日
- 午前と午後で現場が変わった日
- 急遽、別の現場に応援に行った日
- 予定外の残業があった日
通常の「1日フルで入った日」は、忘れていても推測で埋められます。ところが例外は、推測では埋められません。
そして厄介なことに、例外こそが請求金額を変える情報です。0.5人工、1.25人工、掛け持ちの按分。まとめ書きは、この一番大事な部分を最初に落とします。
②記録としての信頼性
後から書いた記録は、後から書いたと分かります。5日分の筆跡と筆圧が同じ、インクの色が同じ、提出日と記載日の乖離。労災が起きたとき、クレームが入ったとき、工期延長を主張するとき。遡って日報を確認される場面があります。
まとめ書きの日報が直ちに無効になるわけではありません。ただし、「その日に記録されたもの」と比べて、信頼性の評価が下がる可能性はあります。
意図的に偽ったわけではなくても、そう見られるリスクがある。これは避けたいところです。
③判断の機会
見落とされがちですが、経営的にはこれが最も大きい損失です。日報が月末にしか上がってこなければ、現場の状況を把握できるのは翌月です。
あの現場、先週から人が増えている。進捗が想定より遅れている。予算の消化が進みすぎている。これらに気づくのが1ヶ月遅れる。工期3ヶ月の工事なら、1/3が終わってから最初の情報が届くことになります。完成後に「赤字でした」と分かっても、打つ手はありません。
「だいたい合っている」の代償
「多少ずれても、だいたい合っていれば問題ない」。そう考える方もいると思います。数字にしてみます。
月20日稼働の作業員が1人。1日分ずれれば、それだけで5%です。常用契約で単価20,000円なら、1人あたり月2万円。作業員が10人いれば20万円、年間240万円の計算になります。
もちろん、ずれは常に一方向ではありません。多く請求してしまう月もあれば、少なく請求している月もあります。そして少なく請求した分は、誰も指摘してくれません。
なぜ、まとめ書きになるのか
原因は4つあります。
①提出期限が月末になっている
「月末までに出して」という運用にしていると、月末に出せばいいことになります。当たり前に聞こえますが、期限の設定がそのまま行動を決めています。
②提出のために事務所に戻る必要がある
現場から直帰できる日でも、日報を出すためだけに事務所へ寄る。この構造があると、「まとめて持っていけばいい」という判断になります。合理的な判断です。責めても変わりません。
③書く量が多い
1日分を書くのに10分かかるなら、5日分で50分。「今日はもういいや」が積み重なるのは、1回あたりの負担が大きいからです。
④誰も催促しない
出ていないことに、誰も気づいていない。あるいは気づいていても、月末にまとめて回収すればいいと思っている。未提出が可視化されていない状態です。
日次にするために
原因が4つなら、対策も4つです。
①期限を「その日のうち」ではなく「現場を出る前」にする
「その日のうち」でも遅いです。帰宅後や翌朝に思い出して書くことになります。現場を出る前。これが最も精度が高く、かつ実行しやすい期限です。
②提出のために移動しない仕組みにする
写真をLINEで送るのでも、電子化するのでも構いません。事務所に寄らなくても提出できる状態を作る。これだけで、まとめ書きは大幅に減ります。
③1日分を1分で終わらせる
書く量を減らします。自由記述欄を2つ以下に絞る。選択式を増やす。前日の内容を引用できるようにする。1分で終わるなら、車に乗る前に終わります。
④未提出を見える状態にする
誰が何日分出していないかを、一覧で見られるようにする。紙のホワイトボードでも構いません。「出していないことが見える」だけで、提出率は変わります。
事務所側で起きていること
まとめ書きは、事務所の負担も増やします。現場から5日分が一度に上がってくると、処理も月末に集中します。
月の前半は日報が来ない、やることがない。月末〜月初は全部が一度に来て、集計と請求で徹夜。同じ総量の仕事でも、山と谷があると人は足りなくなります。
人手による工数集計にかかる時間は月20時間以上(自社調査)ですが、これが月末の3日間に集中すると、実質的に回らなくなります。日次で上がってくれば、同じ20時間でも1日1時間に平準化されます。
まとめ書きをやめることは、事務所の残業を減らすことと同義です。
よくある質問
Q. まとめ書きでも、金額が合っていれば問題ないのでは?
A. 金額が合っているかどうかを、確認する方法がありません。記憶で書いた日報と、記憶で確認しても意味がないためです。日次記録があって初めて、突き合わせが成立します。
Q. 現場が忙しくて、その日のうちに書く余裕がありません。
A. 1日分を書くのに何分かかっているか測ってください。10分かかっているなら、書く量を減らすところから始めるべきです。忙しさの問題ではなく、様式の問題である可能性が高いです。
Q. 日報を写真でLINEに送らせています。これは日次記録になりますか?
A. 提出という点では日次になります。ただし、転記と集計は事務所に残ります。写真が数百枚たまると探せなくなる問題もあります。回収率の改善としては有効ですが、事務所の負担は変わりません。
Q. 月末にまとめて出す元請けがいます。こちらだけ日次にする意味はありますか?
A. あります。元請けへの提出が月末でも、自社の記録を日次にしておけば、提出時に思い出す必要がなくなります。また、元請けの記録と食い違ったときの根拠になります。
Q. 過去のまとめ書きの日報は、どうすればよいですか?
A. 遡って直す必要はありません。今日から日次にすることだけを考えてください。過去の記録を後から修正すると、かえって信頼性を損なう場合があります。
まとめ
- まとめ書きで失われるのは3つ。精度/記録の信頼性/判断の機会
- 記憶は例外から先に消える。そして例外こそが請求金額を変える情報
- 月20日で1日ずれれば5%。単価20,000円なら1人あたり月2万円
- 少なく請求した分は、誰も指摘してくれない
- 原因は4つ。期限が月末/提出に移動が必要/書く量が多い/未提出が見えない
- 期限は「その日のうち」ではなく「現場を出る前」
- まとめ書きをやめることは、事務所の残業を減らすことと同義
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