日報の電子化で、実際いくら浮くのか|自社で計算するための式と、見落とされる3つのコスト
「日報を電子化すると、効率化できます」。こう言われても、判断はできません。いくら浮くのかが分からないからです。
ここまで20本、日報と工数管理の実務を書いてきました。今回は視点を変えて、自社でコストを計算するための式を提示します。
先に結論を書きます。紙代を計算しても、導入判断はできません。本丸は人件費です。
見えるコストと、見えないコスト
日報にかかっているコストは、2種類に分かれます。
見えるコスト
- 用紙代・印刷代
- ファイル・バインダー代
- 保管スペース(キャビネット、倉庫)
- 郵送費・FAX代
見えないコスト
- 日報を書く時間
- 回収する時間
- 転記する時間
- 集計する時間
- 協力会社と突き合わせる時間
- 過去の日報を探す時間
- ミスによる手戻り
圧倒的に大きいのは、後者です。見えるコストだけを計算して「年間◯万円か、それなら現状でいいか」と判断すると、本当のコストを見逃します。
見えるコストを計算する
まず、計算しやすい方から。
用紙・印刷
紙日報の購入・印刷にかかる費用は、月5,000円からというのが弊社調査での目安です(現場数・人数により変動します)。
年間で6万円程度。正直なところ、この金額では導入判断の決め手になりません。
保管スペース
見落とされやすい項目です。キャビネット1本の占有面積を約0.5㎡として、事務所の坪単価から按分します。
法定保存期間を考えると、日報は数年分を保管することになります。キャビネットが3本あれば1.5㎡。都市部の事務所なら、年間で数万円分の賃料に相当します。
郵送・FAX
協力会社や元請けとのやり取りで発生します。1件あたりは小さくても、社数と回数を掛けると積み上がります。
見えるコストの合計
現場10名規模の会社で、年間10万〜20万円程度というのが一つの目安です。これだけを見ると、システム導入のコストと比べて「そこまでではない」と判断されがちです。ここで止まってはいけません。
本丸は人件費
計算式を提示します。自社の数字を入れて計算してみてください。
①日報を書く時間
紙の日報の作成にかかる時間は、1回あたり平均10分というのが弊社調査での目安です。現場10名、月20日稼働なら、10分 × 10名 × 20日 = 2,000分(約33時間)。
②回収・読み取り・転記する時間
回収した日報を読み、不明点を確認し、データに打ち込む時間です。
③集計する時間
人手による工数集計にかかる時間は、月20時間以上というのが弊社調査での目安です。
④協力会社との突き合わせ
時給への換算
各時間を金額に変えます。
年収400万円、年間労働時間2,000時間なら、時給2,000円です。実際には法定福利費を含めるため、もう少し高くなります。
計算例:現場10名の会社
前提を明示します。以下はあくまで例であり、実際の数値は会社によって大きく異なります。
| 項目 | 時間/月 | 金額(時給2,000円換算) |
|---|---|---|
| ①日報作成(現場側) | 33時間 | 66,000円 |
| ②回収・転記(事務) | 15時間 | 30,000円 |
| ③集計(事務) | 20時間 | 40,000円 |
| ④突き合わせ(事務) | 8時間 | 16,000円 |
| 合計 | 76時間 | 152,000円 |
月15万円。年間180万円です。見えるコスト(年間10〜20万円)と比べて、10倍前後の開きがあります。
そして重要なのは、このうち②③④の43時間は、すべて事務所の時間だということです。
電子化で、どこが減るのか
正直に書きます。すべてがゼロになるわけではありません。
- ①(作成):減りますが、ゼロにはなりません。入力の設計次第で、10分が1〜2分になる程度
- ②(回収・転記):ここはほぼゼロにできます。入力された時点でデータになっているため
- ③(集計):集計まで自動化されている製品なら、ほぼゼロ。CSV出力止まりの製品なら、ほとんど減りません
- ④(突き合わせ):会社をまたいで共有できる仕組みがなければ、あまり減りません
どこまで減るかは、選ぶ製品によって全く違います。「電子化すれば全部減る」ではありません。
見落とされる3つのコスト
計算式に入れ忘れやすい項目です。
①過去の日報を探す時間
「去年の8月、あの現場に誰が入っていたか」。紙のファイルを遡る。LINEの写真を延々スクロールする。1回30分かかることもあります。
頻度は月に数回でも、年間では無視できません。労災やクレーム対応で必要になった場合は、緊急で探すことになります。
②ミスによる手戻り
請求書の金額が違った。訂正して再発行する。元請けに謝罪の連絡を入れる。訂正作業そのものより、信頼の損失の方が大きい場合もあります。金額に換算しにくい項目ですが、実在するコストです。
③月末集中による残業割増
これが最も見落とされます。同じ20時間の集計でも、平日の日中に行う20時間と、月末の残業で行う20時間では、コストが違います。
時間外労働には割増賃金が必要です。さらに、一定時間を超える時間外労働にはより高い割増率が適用されます(適用条件は労働時間や事業所の状況により異なるため、詳細は社会保険労務士にご確認ください)。
つまり、日報を日次化して作業を平準化するだけで、同じ総時間でも人件費が下がります。「作業時間を減らす」だけでなく、「山を崩す」ことにも金銭的な意味があります。
計算に入れるべきでないもの
逆に、慎重に扱うべき項目です。
「削減した時間で別の仕事ができる」
理屈としては正しいのですが、何に使うかを決めていないと、効果は実現しません。
事務の方の集計時間が月20時間減ったとして、その20時間が何に変わるのか。採用活動に使う、原価分析に使う、残業を減らして人件費そのものを削る。これを決めずに導入すると、「楽にはなったが、数字は変わらない」という結果になります。
導入を検討する段階で、浮いた時間の使い道を先に決めておいてください。
「ミスがゼロになる」
電子化してもゼロにはなりません。入力ミスは残ります。減るのは転記ミスであって、入力ミスではありません。
導入コストと比べる
浮く金額が出たら、導入側のコストと比較します。
- 初期費用
- 月額費用(人数・プランによる)
- 導入作業にかかる社内の時間(マスタ登録、現場への説明)
- 移行期間中の一時的な負担増
3つ目と4つ目を忘れないでください。導入した月は、一時的に負担が増えます。
投資回収の考え方はシンプルです。
上回らないなら、いまは導入すべきではありません。現場数や協力会社数が増えたときに、改めて計算し直してください。
よくある質問
Q. 自社の数字を測るには、どうすればよいですか?
A. 1ヶ月だけ、集計作業の開始時刻と終了時刻をメモしてください。ストップウォッチは不要です。「何時から何時まで日報の作業をしたか」を記録するだけで、十分な精度が出ます。
Q. 現場の作業時間(①)は、削減額に含めてよいですか?
A. 含めて構いませんが、事務所の時間(②③④)と分けて計算してください。現場の時間が減っても、その分が別の作業に充てられるだけで人件費は変わらない場合があります。一方、事務所の残業削減は直接的に人件費に効きます。
Q. 紙代が安いので、電子化する意味がないのでは?
A. 紙代だけで判断すると、そう見えます。人件費を計算に入れてください。弊社の試算例では、見えるコストと人件費で10倍前後の開きがありました。
Q. 小さい会社でも計算する意味はありますか?
A. あります。むしろ小規模な会社ほど、1人あたりの削減効果が大きくなります。5人の会社で月40時間削減できれば、1人あたり8時間です。
Q. 導入して効果が出なかった場合は?
A. まず、どの工程が減らなかったかを特定してください。①〜④のどこが想定と違ったのか。多くの場合、③(集計)が自動化されていなかったことが原因です。選定時の確認不足である可能性が高いので、次回の選定基準に反映してください。
まとめ
- 日報のコストは見えるコストと見えないコストに分かれる。大きいのは後者
- 見えるコスト(紙・保管・郵送)は年間10〜20万円程度。これだけでは判断材料にならない
- 人件費の計算式は4つ。作成/回収・転記/集計/突き合わせ
- 現場10名の試算例では月76時間・年間180万円。見えるコストの10倍前後
- 電子化で全部が減るわけではない。特に③(集計)と④(突き合わせ)は製品によって差が大きい
- 見落とされるのは探す時間/手戻り/月末集中による残業割増
- 浮いた時間の使い道を、導入前に決めておく
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