一人親方の工数管理は、3つ記録すれば足りる|請求と確定申告を守る最低限の記録
一人親方には、事務員がいません。現場から帰ってきて、疲れた体で請求書を作る。先月どの現場に何日入ったか、手帳をめくって思い出す。月末の夜に、この作業をしている方は多いと思います。
ここまでの記事は、事務所と現場がある会社を前提に書いてきました。今回は一人親方と、数人規模の事業者に絞ります。
結論から書きます。一人親方が記録すべきは、3つだけです。
記録するのは、この3つ
- 日付
- 元請け(または現場名)
- 人工(1日なら1、半日なら0.5)
以上です。作業内容も、天候も、進捗も、記録する必要はありません。元請けが現場日報を管理しているので、それは元請けの仕事です。
一人親方が自分のために残すべきなのは、「いつ、どこに、どれだけ入ったか」だけ。これが請求の根拠であり、売上の根拠になります。
単価が複数ある場合だけ、4つ目を足す
元請けによって単価が違う、あるいは職種や時間帯で単価が変わる場合は、単価または区分を足してください。後から「この日はどっちの単価だったか」を思い出すのは困難です。
なぜ記録が必要なのか
「手帳に書いているから大丈夫」という方も多いと思います。ただ、記録には3つの役割があります。
①常用なら、人工がそのまま請求額になる
常用契約では、投入した人工数に単価を掛けたものが請求額です。
人工が1つずれれば、そのまま2万円ずれます。記憶に頼る金額ではありません。
②「言った・言わない」を防ぐ
月初に元請けから「先月、人工が1つ多くないですか」と連絡が来る。このとき、日付ごとの記録があれば「◯月◯日に入っています」と即答できます。記録がなければ、水掛け論になって値引きに応じることになります。一人親方にとって、1人工の値引きは丸1日分の売上です。
③確定申告の売上根拠になる
売上の根拠資料として、日々の記録は有効です。請求書の控えと日報が一致していれば、説明に困ることはありません。税務上の書類の保存については、顧問税理士または税務署に確認してください。事業形態によって必要な書類が異なります。
記録の方法:3つの選択肢
規模に応じて選んでください。
①手帳・紙のカレンダー
取引先が1〜2社なら、これで十分です。費用ゼロ、現場でもすぐ書ける、電池切れがない。弱点は、月末に集計を手作業でやることと、紛失したら終わりという点です。写真に撮ってスマホに保存しておくと、紛失対策になります。
②スプレッドシート(Googleスプレッドシート・Excel)
取引先が3社を超えたら、こちらを推奨します。日付/元請け/現場/人工/単価 の5列で十分で、元請けごとの集計が関数で出せます。スマホからも入力でき、クラウドなら紛失しません。
無料で始められます。1行1レコードで入力するのがポイントです。月間カレンダー型にすると、元請け別の集計ができなくなります。
③専用アプリ
取引先が5社を超える、または人を使い始めたら検討する段階です。請求書の作成まで自動化できるものもあります。ただし月額費用が発生するので、「月末の作業に何時間かけているか」と比較して判断してください。
判断の目安
| 取引先の数 | 推奨 |
|---|---|
| 1〜2社 | 手帳・カレンダー |
| 3〜4社 | スプレッドシート |
| 5社以上/人を使い始めた | 専用アプリを検討 |
取引先の数が、切り替えの基準です。現場の数ではありません。締め日と単価が取引先ごとに違うため、社数が増えるほど管理が複雑になります。
一人親方が陥りやすい3つの失敗
①記憶で請求書を作っている
月末に手帳を見返して、おおよその日数で請求する。繁忙期ほど危険です。半日で上がった日、途中で現場が変わった日、応援に行った日。これらは1ヶ月経つと思い出せません。その日のうちに記録する。これだけで精度が変わります。
②元請けごとに記録場所がバラバラ
A社はLINEで報告、B社は紙の日報、C社は口頭。自分用の記録が、どこにもない状態になりがちです。元請けに提出した記録は元請けのものであって、自分の手元には残りません。元請けに何を出したかに関わらず、自分用の記録は1箇所にまとめてください。
③請求書の控えを残していない
請求書を作って送って終わり、というケースがあります。後から「支払われていない」「金額が違う」となったとき、控えがないと証明できません。PDFでも構わないので、必ず保存してください。
請求とインボイスについて
インボイス制度により、適格請求書発行事業者の登録番号がない請求書では、発注側が原則として仕入税額控除を受けられなくなりました(経過措置があります)。
このため、登録している場合は請求書に登録番号を必ず記載する、登録していない場合は取引条件について元請けと事前に確認しておくことが必要です。
なお、免税事業者であることを理由に、一方的に取引価格を引き下げることは、独占禁止法上または下請法上の問題となる可能性があります。
登録の要否、消費税の負担、経過措置の適用については、税理士または税務署に相談してください。事業規模や取引先の構成によって最適な判断が変わります。
元請けから「このシステムを使って」と言われたら
近年、元請けが施工管理システムや日報システムを指定するケースが増えています。このとき確認すべきことが3つあります。
①費用負担は誰か
元請けが持つのか、自分が払うのか。払う場合は金額と期間を確認してください。
②自分用の集計に使えるか
そのシステムは、A社の現場の分しか記録できない可能性があります。B社・C社の分と合算した、自分の月間売上は見られません。その場合、そのシステムとは別に、自分用の記録を続ける必要があります。
③取引が終わったらデータはどうなるか
契約終了後に過去の記録が見られなくなるなら、手元に控えを残しておく必要があります。
元請けのシステムは、元請けのためのものです。自分の記録は自分で持つ、という原則は変わりません。
規模が大きくなる前にやっておくこと
人を1人雇う、あるいは応援を頼むようになると、管理の性質が変わります。自分の人工に加えて他人の人工を記録することになり、給与計算、または外注費の支払いが発生し、労働時間の管理が必要になる場合があります。
このタイミングで記録方法を変えるのは大変です。手帳で回していた人が、いきなり複数人分を管理するのは難しい。人を使う予定があるなら、その前にスプレッドシートへ移行しておくことをおすすめします。1人分の運用で慣れておけば、人が増えても同じ形で拡張できます。
なお、人を雇用する場合と外注する場合では、社会保険・労災・契約形態の扱いがまったく異なります。実際に人を使い始める前に、社会保険労務士に確認してください。
よくある質問
Q. 日報は元請けに提出しているので、自分用の記録は不要では?
A. 提出した日報は元請けのものです。手元に控えがなければ、後から確認できません。また、複数の元請けと取引している場合、自分の月間売上を把握できるのは自分の記録だけです。
Q. 手帳で十分だと思うのですが、アプリにする必要がありますか?
A. 取引先が1〜2社で、月末の集計に困っていないなら、手帳で十分です。困っていないことを解決する必要はありません。判断は「月末の作業に何時間かかっているか」で行ってください。
Q. 半日で上がった日は、どう記録すればよいですか?
A. 0.5人工と記録するのが一般的です。ただし何時間までを0.5とするかは元請けによって違います。契約時に確認しておくと、月末に揉めません。確認していない場合は、早めに聞いておくことをおすすめします。
Q. 記録はどのくらいの期間、残すべきですか?
A. 帳簿書類の保存期間は事業形態や申告方法によって異なります。税理士または税務署に確認してください。実務上は、請求書の控えとあわせて長めに保管しておく方が安全です。
Q. 一人親方でも工数管理アプリを契約できますか?
A. 製品によります。最低利用人数を設けている製品では契約できない場合があります。「1名から契約できるか」を事前に確認してください。
まとめ
- 一人親方が記録すべきは日付・元請け・人工の3つだけ。単価が複数あるなら4つ目に区分を足す
- 記録の役割は3つ。請求の根拠/「言った・言わない」の防止/売上の根拠
- 方法は取引先の数で選ぶ。1〜2社は手帳、3〜4社はスプレッドシート、5社以上はアプリを検討
- 失敗は3つ。記憶で請求する/記録場所がバラバラ/請求書の控えがない
- 元請けのシステムを指定されても、自分用の記録は自分で持つ
- 人を使い始める前に、記録方法を移行しておく
- インボイス・労災・契約形態は、税理士や社会保険労務士に確認する
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